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自分の直感に従って勝負をかける

 古くから伝わる四字熟語やことわざ、名言には、先人たちの知恵が凝縮されています。国や時代背景、慣習が異なるにもかかわらず、先人の言葉が現代に生きる私たちの心に染み入るのは、古今東西変わることのない、人としての生き方や、心のあり方、人と人とを結ぶ絆の大切さを教えてくれるからでしょう。今回は、イギリスの考古学者、ウォーリス・バッジの実話を紹介しながら、四字熟語に触れたいと思います。

乾坤一擲(けんこんいってき)

「乾坤」は、天と地の意味、「擲」は投げるという意味で、サイコロを投げて天が出るか、地が出るかをかけること。すなわち、自分の運命をかけるような大きな仕事や勝負に出ることを言う。使い方としては、「乾坤一擲の大事業」など。類語/一か八か

試験の前日に見た奇妙な正夢

「あのとき、こう行動していれば人生が変わっていたかも……」。誰でも、そのときやらなかったこと、できなかったことに対して、後悔の念を抱くことがありますよね。行動をためらった大方の理由は、「どうせだめだろう」とあきらめたからではないでしょうか。

 けれども、「後がない」という切羽詰まった状況下では、意外な力を発揮できるものです。19世紀から20世紀に活躍した考古学者、ウォーリス・バッジもその一人でした。

 イギリスのコーンウォール州で生まれたウォーリスは、幼い頃から古代文字に関心を持っていましたが、家が貧しく、大学への進学が困難でした。それでもあきらめずに勉強を続けていると、当時の首相、ウイリアム・グラッドストンに認められ、ケンブリッジ大学へ進むことができました。彼が入学してしばらくしたとき、オリエント語の研究者のために奨学金が設けられることになりました。「これで、生活の心配をせずに勉強に打ち込めるぞ」と喜んだウォーリスでしたが、奨学金を受けるためには難しい試験に合格する必要があったのです。

 試験を控えた前日、彼は思うように勉強がはかどらず、非常に焦っていました。そこで、「とにかく気を落ち着かせよう」と、ベッドに横たわり、眠りに落ちました。そのとき、試験会場にいて、難しい試験問題に落胆している夢を見ました。「なんだ、夢だったのか」。目を覚ました彼はホッとして、再び眠りにつきました。

 ところが、奇妙なことにまた同じ夢を見たのです。しかも今度は、問題の内容をはっきりと覚えていました。それは、ヘンリー・ローリンソン著の『西アジアの楔形文字の碑文』の内容を暗記すれば解ける問題でした。「もしかすると……」そう感じた彼は、一夜漬けでその本をすべて暗記しました。

 翌日、ダメ元で試験会場に入ったウォーリスは仰天します。夢で見た建物と寸分変わらない試験場で、夢と同じ試験官が試験問題を配ったからです。さらに、配られた問題を見て、声を上げそうになりました。その問題こそ、昨夜夢で見た内容でした。「やった! あとは覚えたことを書くだけだ」。こうして彼は、優秀な成績で試験に合格しました。

 奨学金を受けることになったウォーリスは、これまで以上に勉学に励み、やがて、大英博物館に就職します。そしてエジプト・メソポタミア地方での遺跡の発掘調査、収集にあたったほか、古代エジプトの『象形文字事典』を著すなど、古代文字研究の一人者として、数々の業績を残したのです。

人生の中に散りばめられた幸運のサイン

 夢に試験問題が出てくれば、確かに楽勝ですよね。でも、夢の通りに問題が出る確証は一つもありませんし、もしもウォーリスが、「単なる夢だ」と片付けて、勉強をあきらめていたら、奨学金を受けることも、チャンスを生かすこともできなかったかもしれません。二度の“夢のお告げ”に従って勉強したからこそ、つかめた幸運だったのでしょう。

 ウォーリスのような夢の体験は、誰もができるわけではありませんが、似たような体験をすることはあり得ると思うのです。例えば、連続して起きること、つまり、同じような出来事が立て続けて起きたりする場合は、何らかのメッセージを受け取っている可能性があります。それが心地よい内容なら、「チャンスが来た。一歩踏み出してごらん」ですし、不愉快な内容の場合は、「気をつけないと危険だよ」と考えられます。

 では、それをどう見極めるのかというと、あなた自身のインスピレーションにかかっているのです。前述のウォーリスも同様、信じたのは、ただ自分の直感でした。あなた自身も、「思い起こせば、あのとき起きていたことは……」という覚えがあるはずです。今後、もしも“これだ!”と感じる瞬間があったら、自分を信じて、乾坤一擲を賭(と)してみてはいかがでしょうか。もしかすると、思わぬ幸運を手にできるかもしれませんよ。

(構成・文/松岡宥羨子)

 

参考文献/『科学では説明できない奇妙な話〜偶然の一致篇〜』(河出書房新社)

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