夏の風物として涼を感じさせてくれる風鈴。今の家庭ではあまり見られなくなりましたが、昭和40年代ぐらいまでは、軒先で涼やかな音色を奏でる風鈴をよく見かけたものです。
風鈴の起源は、風鐸(ふうたく)と呼ばれる鐘型の鈴で、古代インドでは魔除けとして用いられていました。中国の北魏(ほくぎ/386〜534年)の時代、インドに巡礼した僧たちにより、塔廟にかけられた多数の風鐸が、風にゆられて音を響かせていたことが記録されているそうです。中国では、風鐸を竹林の枝に吊り下げて、音の鳴り方による吉凶占いも行っていたので、占(せん)風鐸とも呼ばれました。
風鐸は仏教と共に日本に伝わり、法隆寺の五重塔をはじめ、仏教寺院の屋根の四隅にかけられるようになります。飛鳥・奈良時代、ガラン、ガランという風鐸の音が聞こえるエリアの住人には、災いは起こらないと信じられていました。平安時代に入ると、浄土宗の開祖、法然上人が風鈴(ふうれい)という名称を初めて使い、後に“ふうりん”と呼ばれるようになります。平安・鎌倉時代の貴族は、疫病神の侵入を防ぐため、鉄製の風鈴を縁側に吊るしていたそうです。
江戸時代になると、風鈴は大衆に広まっていき、その用途も変わり始めます。1700年代には、釣り鐘型の鉄製風鈴が南部鉄器の製造過程で生まれ、その後、ガラス風鈴も作られるようになりました。その頃から風鈴は、魔除けから涼を感じるものへと変わり、明治時代には「風鈴売り」が登場します。ちなみに風鈴の振り管に結びつけられている短冊は、わずかな風を捉えて音を奏でる装置で、ギザギザした鳴り口も、美しい音色を出すための仕掛け。いずれも庶民の知恵から生まれたものです。
鉄製やガラス製のほか、陶器、竹、備長炭、貝殻、金属、真鍮など、今では素材や形も多様になった風鈴は、さまざまな音色を楽しめます。風鈴の音色は、小川のせせらぎや小鳥のさえずり、木の年輪など、自然界の不規則なゆらぎと同じ、「1/fゆらぎ」があり、このゆらぎにふれるとリラックスできると言われています。1/fゆらぎは生体リズムにも見られるので、同じゆらぎを持つ風鈴の音に、人は安らぎを感じるのだそうです。
ところで、「風鈴電車」をご存知ですか? 群馬県前橋市と桐生市を結ぶ上毛電車(じょうもうでんしゃ)では2014年は9月10日まで、車内に100の風鈴を吊るした電車が運行する予定です。同様の企画は兵庫県の能勢電鉄、京都府の叡山電鉄などでも実施され、上毛電車や能勢電鉄では、公募で寄せられた川柳が短冊に書かれているそうです。
来る夏を喜び、行く夏を惜しむかのように美しい音色を奏でる風鈴……。風鈴に情緒を求める人の心は、今も昔も変わらないのですね。猛暑のシーズンに入りましたが、時には窓を開放して、風鈴が奏でる風の音にしばし耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
参考文献/『NHK美の壺 風鈴』(NHK出版)
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