『赤毛のアン』『青い麦』『冬物語』『時をかける少女』と聞いて、あなたは何を連想しましますか? それぞれ、モンゴメリ、コレット、シェイクスピア、筒井康隆が著した小説のタイトルですが、いずれも作中に「ラベンダー」が登場するのです。
『時をかける少女』はご存知の方も多いでしょう。ラベンダーの香りをかいだ少女がタイムトラベラーとなり、未来の少年と出会う話はとてもロマンチックですよね。古今東西の小説家がラベンダーを小説に登場させたのは、甘く神秘的に香るこの花が、人々の心を魅了して止まなかったからではないでしょうか。
ラベンダーはシソ科のラバンデュラ属の小低木です。原産地は地中海沿岸地方をはじめ、熱帯アフリカ北部、インド、西アジア、大西洋諸島、カナリヤ諸島などで、2000年以上も前から薬草や香料として使われていました。ラバンデュラ(lavandula)の語源は、ラテン語の“lavare”(洗う)に由来し、古代ローマ人がラベンダーの香りを、入浴や衣類の香りづけに使っていたのではないかと推測されています。
ラベンダーの原種は約30種類あり、変種・亜種、栽培品種などを含めると、膨大な数になると言われています。代表的な品種は、ローマ人が使用していたラベンダーの代表格、アングスティフォリア系(別名イングリッシュラベンダーなど)、穂先にリボンのような花を咲かせるストエカス系(別名フレンチラベンダー、スパニッシュラベンダー)です。さらに、アングスティフォリア系と他種との自然交雑または交配により生まれたラバンディン系や、歯状の葉を持つデンタータ系(ストエカス系グループ)、個性的な形状と香りのプテロストエカス系など、他にもたくさんの系統があります。
なお、ラベンダーが初来日したのは江戸時代後期と言われていますが、普及したのは昭和初期。当時、フランスから種が輸入され、香料の原料として北海道で生産が始まりました。現在では品種改良も進み、国内でもさまざまな地域で栽培されるようになりました。ちなみにアングスティフォリア系は5月下旬〜6月中旬、ラバンディン系は7月〜9月初旬が開花期で、プテロストエカス系は温度や状態によって、ほぼ一年中見られると言われています。なお、北海道の富良野では7月から8月が見頃だそうです。
ラベンダーの香りは、かいでいて心地良いものですね。それもそのはず、この香りには精神を安定させ、疲れを癒し、体のリズムを整える働きがあると言われているのです。また、鎮痛、殺菌、抗炎症効果なども知られていますが、効果に関して興味深いエピソードが残されています。フランスの科学者、ルネ・モーリス・ガットフォセ(1881〜1950年)が、芳香療法の研究中に火傷を負い、とっさにラベンダーの精油に手を浸したところ、跡を残すことなくきれいに治ったそうです。以後、あらゆる精油の研究に力を注いだ彼は『アロマテラピー(芳香療法)』を出版、世にこの言葉を紹介したのです。
アロマテラピーという言葉が誕生するきっかけを作ったラベンダー。精油をニキビ予防などのスキンケアに利用したり、ポプリのサシェを枕の下にしのばせて安眠効果を得るのも良いでしょう。また、ティーやワイン、ゼリーなどのお菓子や料理などに加えて食べられるドライ・ラベンダーも市販されていますので、いろいろと楽しんでみてはいかがでしょうか。
※参考資料
『NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月 ラベンダー』(日本放送出版協会)、『Lavender Book』(グラフ社)
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