「目には青葉 山時鳥(やまほとどぎす) 初松魚(はつがつお)」
江戸時代の俳人、山口素堂が詠んだ句のように、初夏は青葉が目にしみる季節です。植物は、太陽の光エネルギーと空気中の二酸化炭素、根から吸い上げた水を使ってデンプンなどの栄養分を合成し、酸素を放出しています。この働きを光合成と言いますが、光合成を行うのは、光合成色素の一つ、葉緑素(クロロフィル)を持つ植物で、葉緑素には葉酸がたっぷりと含まれています。
葉酸は水溶性のビタミンB群の仲間で、発見のきっかけを作ったのは、イギリスの医師、ルーシー・ウィルスです。彼女はインドで巨赤芽球性貧血を発症した妊婦に、酵母エキスを投与したところ、症状が治まったことから、酵母エキスの中に貧血を予防する物質があることを発見しました。その10年後に当たる1941年、ホウレンソウの葉からも同じ物質が発見され、ラテン語で「葉」を意味する「foliumフォリウム」から、葉酸「folic acidフォリックアシッド」と名付けられました。
葉酸はタンパク質や核酸(DNAやRNAなど)の合成に欠かせないビタミンで、体内で細胞の生成や再生を行い、成長や新陳代謝を促します。葉酸を摂取することで、皮膚や粘膜が健康に保たれるのです。また、ビタミンB12とともに正常な赤血球を作って貧血を防いだり、動脈硬化を防いでくれます。逆に葉酸が不足すると、正常な赤血球がつくられなくなって悪性貧血を引き起こす原因となったり、体内でホモシステインというアミノ酸量が増え、血液の凝固や血栓などを形成して動脈硬化を誘発する原因になるほか、血流の停滞によって認知症などを引き起こす恐れもあると言われています。
葉酸の摂取基準は12歳以上の男女で200μg 、推奨量240μgと言われていますが、妊婦については400μg、授乳婦は280μgを摂取する必要があると言われています。厚生労働省では、妊娠を計画している女性に対して、食品から摂る葉酸に加えて、1人1日当たり400μgの葉酸をサプリメントから摂ることを推奨しています。ことに妊娠初期は、胎児の細胞分裂が盛んに行われるので、細胞の増加に不可欠なDNAなどの生成に葉酸が欠かせないのです。
葉酸は水溶性ビタミンなので、過剰に摂取した分は尿とともに排出されます。必要摂取量を多少超えても心配ないので、安心して摂取することができるのです。反対に、妊娠中の女性に葉酸が不足すると、貧血症や神経管閉鎖障害という先天異常の心配があると言われているので、発生率を低減させるためにも積極的に摂取したいものです。
なお、葉酸を多く含む食品は、ホウレンソウ、ブロッコリー、芽キャベツ、モロヘイヤ、アスパラガス、枝豆、大豆、のり、昆布、お茶、レバーなどです。これらの食品を意識して食卓に登場させ、不足分はサプリメントで補うなど、上手に摂取すると良いでしょう。
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