自然に親しむ機会が増えるこの季節、山や川の岸辺を散策される方も多いことでしょう。ふうっと深呼吸をしながら美味しい空気を胸一杯吸って、鳥たちの奏でる音楽に耳を傾けると、うきうきした気持ちになりませんか? その中に、「チッツー!」「チー!」という鋭い鳴き声が聞こえたら、“飛ぶ宝石”“ の異名を持つカワセミが近くにいるかもしれません。
カワセミは、スズメよりやや大きな全長約17センチの留鳥で、全国の低地や低山の川や湖沼、池などの周辺にすんでいます。体に比べて頭部が大きく、長いくちばしを持ち、雌・雄共にブルー系の美しい羽毛を持つのが特徴です。光の当たり方によっては、エメラルド・グリーンにも見えるのですが、その色に因んで名付けられた宝石が、翡翠(ヒスイ)であると伝えられています。確かに、カワセミは漢字で「翡翠」とも表されますし、どちらの字にも“羽”という字が使われていますよね。
けれども、カワセミの羽毛の色は地色ではなく、微細な羽の構造による発色現象なのです。これを構造色と言い、カワセミの羽に光の干渉や散乱作用が起こることで、色が変化して見えるのです。こうした現象は、クジャクやマガモ、玉虫のほか多くの生物に見られます。CDやシャボン玉、虹も同様で、これらを想像すると分かりやすいかもしれませんね。
カワセミは翡翠と書くほか、川蝉、魚狗、水狗、魚虎、魚師とも表されます。水や魚に因んだ勇ましい名前が付けられたのは、魚を捕らえる様子に関係があります。カワセミの餌はフナやドジョウ、ヤゴ、エビ、ザリガニなど。水中を見下ろせる木の枝や杭、岩に止まって水面近くに獲物が現れるのを待ち、見つけるや否や急降下して一瞬で捕まえてしまいます。止まる場所がないときは、ホバリング(停空飛行)をしながら獲物を探します。
カワセミの長いくちばしは巣作りにも活かされます。巣は垂直な土壁に作られるのですが、くちばしで体当たりするようにして穴を開け、50㎝〜1mほどの横穴を掘って奥に巣室を作り、卵が孵ってから雛が巣立つまでの約24日間、巣穴で子育てをします。一時期、コンクリート護岸工事や宅地開発などにより、カワセミの姿が激減しましたが、近年、環境保全の強化により汚染された川の水質が向上すると、再び都内の公園でも見られるようになりました。また、カワセミが巣穴を作れるよう工夫された「カワセミ営巣ブロック」が護岸工事に使われるようになり、巣作りや巣立ちの様子も確認されているそうです。